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13.晴れた日、庭園で

Penulis: 杵島 灯
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-05 21:28:14

「……それにしても。ライナー様がこのお城にいらしてもうじき一年ですか。月日が経つのは早いですね。私たちも最初はきちんとお世話できるかどうか緊張していたんですけど、おかげさまで今はとっても楽しくさせていただけてます」

「ライナーがあなたたちにとって良い主人になれているようで安堵したわ。これからもよろしくね」

「もちろんです」

 再び花茶とにらめっこを始めた侍女の邪魔にならないよう、ジゼルはそっと小部屋から出る。護衛が厨房で何かを手伝っているのを見て、ジゼルは外へ続く扉を自分で開けた。あの護衛もジゼルの行先が庭園だと知っているのだから、用事が終われば追いかけて来るだろう。

 徐々に濃くなる香りを道しるべにして庭園へ入ると、さまざまな色をした満開の薔薇が出迎えてくれる。

 この辺りの薔薇は今が盛りだ。青空の下で様々な色の薔薇が「見てくださいな」とばかりに咲き競っているさまは本当に美しい。

 左右に目を奪われながら目的の『愛しの君』が咲く中心部へ進むうち、ジゼルは行く先の方から何やら声が聞こえてくることに気が付いた。

 話しをしている声は二人分。そのうち片方は父のピエールのものだ。そうして、聞いているだけで浮き立つもう片方の声は。

(ライナーだわ)

 予定外の場所でライナーの声を聞けて、ジゼルは思わぬ良い拾い物をした気分になる。

(二人で何の話しているのかしら?)

 立ち聞きは礼儀に反すると分かっているが、好奇心には勝てなかった。ジゼルはドレスの裾を持ってそっと進み、大きな木の陰に身を隠して耳をそばだてる。

 最初に耳に届いたのはピエールの声だった。

「相手のイメージを自分の象徴花にするなんて、珍しいね」

 その言葉を聞いてジゼルはどきりとする。

 ライナーはこの城にきてからずっと、自分の象徴花を何にするのか悩んでいた。一年近く経ってをようやく決めたらしいが、ジゼルが気になるのは「どの花になったのか」ではなく。

(……相手のイメージを自分の象徴花に……ってどういうこと?)

 意図せぬまま荒くなった呼吸の音が聞こえてしまいそうな気がしてジゼルは右手で鼻と口元を押さえる。

 そんなジゼルに気づくことはなく、男性二人は話を続ける。

「珍しいですか」

「うん、あまり聞かないかな。象徴花は名の通り『象徴』だから、自分自身のイメージとなる花を選ぶ人がほとんどなんだよ」

 ピエールの言
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